Learning Web

起業、人事、アジア、などなど

人事評価のシーズン

今週はずーっと評価者研修というのをやっていました。評価のタイミングは企業によって異なりますが、3月末というのは各社、人事評価を行うことが多いようです。従い、我々の人事評価コンサルティングの業務もこの時期に集中します。。

そもそも人事評価はとても難しいです。昨今「人事評価はいらない」という風潮もあるようですが、会社である以上、限りあるポストと報酬原資を配分する宿命からは避けられず、なにかしら人間に点数をつけたり順位付けをするというのはすぐには無くなるものではない、と私は思っています。

人間が人間を評価するのですから、必ず好き嫌いや印象が発生します。間違ったバイアス(偏見)は極力取り除かないとマネジャーは評価を間違えてしまいます。一方で、よく「主観ではなく客観的な評価を」といって、上司が変わっても公平な評価ができる指標のようなものを入れようとする会社もいますが、それも正しくありません。単純な定型業務ならともかく、仕事が付加価値業務に移行している昨今、簡単に数値で図れる仕事はどんどん減っているからです。

誤解を恐れずに言うと、評価とは最終的には「主観で決めて良い」もの、です。グレーである人間の行動を均一・一律に評価することは出来ないからです。また、マネジャーというのはそれぞれの組織の「長」であり、会社方針と反しない範囲で、自チームの方針、価値観を打ち出すのも大切な仕事です。それぞれの「長」にはそれぞれの方針があってしかるべきで、その方針に従って、「私は彼を高く評価したい」という主観をもって、最後は判断を決する仕事、それが評価です。(またそうした判断が、リーダーとして成長していく大切な訓練となります)

ただし、「主観」と「好き嫌い」は紙一重です。重要なのは「事実・根拠に基づいていること」です。評価というのは一次評価の後は必ず会社によって調整が入りますから、根拠のない主観評価では周囲からの指摘に押し負けて調整されてしまいます。評価におけるマネジャーの仕事は、部下の行動事実を適切に観察把握し、その事実に基づいて評価という名の判断を下し、それを周囲に納得させられること、ということになります。


・・・さて、タイでの人事評価は日本よりもかなりシビアな面があります。日本以上にお給料にシビアな方も多いですし、また転職は当たり前の社会ですので評点や昇進判断を間違えるだけで人が一気に辞めてしまうこともあります。多くのマネジャーが緊張感を持って臨んでいるのではないでしょうか。

あるタイ人マネジャーがとても良いことを言っていました。「人事評価とは、つまりは部下のキャリアを考えてあげることだ。今年1年の評価で一喜一憂するな、と常に言っている。数年後にどうなりたいのか、をちゃんと話していれば、その年の評価が悪かったとしてもその意味合いを受け入れてもらえる」と。こうしたスタンスで部下と面談が出来ていれば、部下もその上司を信頼するのではないか、と思わされる一言でした。

この、「キャリアを真剣に考えてあげること」というのはタイおよび東南アジアの社会ではマネジャーに求められるスタンスとして重要だと私は思っています。通常若いスタッフは長くても2,3年で辞めることが多く、また日本の会社に比べると長期雇用を前提としたシステムになっていないので、会社として、5年後、10年後のキャリアパスが提示されているケースは稀です。しかるに、ある意味で辞めて当然という状況でもあります。

日本の大企業における一括採用・年功的システムには批判もありますが、先輩社員を見れば「5年後、10年後はこうなるんだな」というイメージが何となくわくように出来ているというのは、キャリアパスを考えさせる上では便利なシステムです。東南アジアの社会にはそれが無いので、スタッフのキャリアを考えてあげるのは上司の手腕にかかっている、と私は思っています。

いち個人としてそのスタッフの能力や資質を見た時「このスタッフは5年後、10年後、こんな活躍ができるのではないか」ということをしっかりと見定めて、そのイメージを伝えてあげることが大切です。もし5年後のその社員の活躍のイメージが自社の中に見当たらないようであれば、会社のシステムに問題があるかもしれませんので、システムを整えられるよう会社としての努力が必要です。

大切なのは、「自社に残る、残らないに関わらず」というスタンスでキャリアを考えてあげることです。優秀人材が長く会社に居てくれればそれに越したことはないですが、キャリアというのは人の縁やライフステージなど様々な要素で決まりますから、外に出ていくことはある意味で避けられないことです。なので「こういう能力を身に着けておくことはあなたの将来に役立ちますよ」といったスタンスで成長を考えてあげることが大事だと思います。

外に出て行った後のキャリアの心配をしてあげるのはややお人よしのようにも思えますが、「仮に会社を出たとしても通用する能力を身に着けること」は、本人のモチベーションにもなりますし、また、上司として本人のキャリアを一緒に、真剣に考えてあげることが出来れば、結果としてその能力を自社で生かしたい、と思ってもらえる可能性も高まるのではないでしょうか。

ちなみに弊社のタイ人スタッフもそれぞれに夢や目標がありますから、ずっといてくれるものではないと思っています。それでもその夢がかなえられるために必要なスキルや経験を弊社にいるうちに積んでほしいと思いますし、また、結果として、その夢が弊社の中でかなえられる様な環境が提供出来たら理想的だな、と思っています。