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経営者が知っておくべき「ビジョンの作り方」8カ条

かれこれ組織人事の業界も10年ほどになり、最近色々なスタートアップ経営者の方と話す機会が増えてますが、「ビジョンを作ることの大切さ」についてますます実感するこの頃です。「思想」「ストーリー」という言葉を使うこともあります。


「思想が大事」とかいうと、「そうそう!」とスッと伝わることもあれば、「ふーん・・・経営理念ならあるけど・・・」とピンとこない顔をされることもしばしば。この辺の感度は個人差があるものだと思いますが、ビジネスがソフト化し、またグローバル化していくと、「人にものを買ってもらう」「入社して仲間になってもらう」上で魅力的なビジョンが必要不可欠になっていきます。なかには僭越ながらお会いしていて「もっと良いビジョンが作れるはずなのに勿体ないなぁ・・・」と、感じる企業もしばしばあります。


そこで今日は僕の経験と独断に基づいて「ビジョンの作り方」についてまとめておくです。きれいにMECEになってないですが、必要なことはなるべく盛り込んでみました。参考になれば幸いです。

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1.ビジョンは「自分にしか分からない独り言」から始まる


逆説的なものの言い方ですが、ビジョンは「人に伝えて人を動かすためのもの」ですが、一方で「簡単には人に伝わらない」ものであることも大事です。
ビジョンとは「景色」です。人は、「見たことのある景色」には惹かれません。「見たことのない景色を見ている人」に、ついていきたいと思います。
「今は僕しか見えないけど、こんな素晴らしい景色があるんだ(一緒に見に行かないか?)」と「自分が実現したい、今はまだ無い世界」について熱っぽく語れることが大事です。この段階では8割くらいの人の頭の中に「?マーク」が浮かぶくらいでちょうどいいと僕は思っています。
孫正義社長はソフトバンクを創業した時に「これから我々はお金を豆腐のように一丁、二丁(兆)と数える会社になる!」と宣言して、初期の社員が「こいつは頭がおかしい」と辞めてしまった、と言っています。また、ホンダの本田総一郎は「他人に理解できるような夢は、本当の夢ではない」と言ってのけています。ここまでのスケールのビジョンを持つのは簡単ではないですが、初期段階は特に自分が夢想するビジョンを信じることが必要だと思います。


2.ビジョンは論理で作らない

突き詰めれば人間は動物なので、「論理では無く感情」で動きます。ワクワク、ドキドキ、ウキウキ、で動くわけです。論理とは人間が社会を円滑に動かすために後から作ったツールです。ビジョンは直感的に人を動かすものでなくてはいけないので、「感情」がメインで「論理」がツール、という関係性を理解する必要があります。また、「感情は伝染する」という科学的なメカニズムがあります。自分の感情が強く動いているか?が良いビジョンのバロメーターだと思ってください。


3.ストーリー=「動画」を作る

ビジョン(vision)は、visual(視覚)と語源を同じくする、「目で見るもの」です。「耳で聞くもの」「文字で読むもの」ではありません。良いビジョンは脳の中に「映像」を浮かばせます。映像を浮かばせるにはどうしたらいいか。それは「ストーリー」を使うことです。ストーリーとは、「昔々あるところにお爺さんとお婆さんが・・・」というような、「ある情景を描写する物語」のことです。
「10年後に売上○○億円で、業界ランキング1位の起業になります」はストーリーではありません。「10年後のあなたを想像してみてください。目の前にお客様がいます。お客様は業界で最も信頼される企業である我々を頼ってくださっています。そしてある時、お客様はこう言いました・・・」という「情景」がストーリーです。脳内でも良いですし、動画等の脳外でもよいので「情景」を描くことが大事です。ちなみに良質な映画やCMが世界中で流通するように、この「ストーリー化」をうまく行えば、ダイバーシティの高い海外組織も束ねることが可能になります。


4.「ビジョンターゲット」を設定する

次にその映像に登場する人は誰なのか?を具体的に考えます。つまり「最もファンにしたいステークホルダーは誰なのか」を具体的に考えます。若者なのか?ビジネスマンなのか?富裕層なのか?子育て世帯なのか?などを考えます。マーケティングで言う「ペルソナ」です。つまりターゲットの顔や生活がイメージできればできるほど、ビジョンも尖ります。B2Bであれば、もしお客さんを「1社」だけ選ぶとしたらどこなのか?を考えます。大手なのか?ベンチャーなのか?製造業なのか?日系企業なのか?グローバル企業なのか?を考えます。そして設定したターゲットに向けてストーリーの解像度を上げます。


5.色のついた「旗」を掲げ、嫌われる勇気を持つ

「皆に好かれようとすると誰からも好かれない」という原則があります。「すべての人から愛される企業になる」というのは、あまり良いビジョンとは言えません。企業のビジョンとは、「旗」だと思います。つまり赤いのか、白いのか、何か「色」があるものです。戦場における旗は「敵と味方を分ける識別記号」になります。「玉虫色」の旗に味方は付いてきません。「子供にも、大人にも、高齢者にも、皆さんに向けた企業です」では誰も振り向いてくれません。「私たちは子育て世帯を応援します」と言ったときに初めて、そのターゲットは振り向いてくれます。それ以外のターゲットからわざわざ嫌われに行く必要は無いですが、八方美人になってはいけません。


6.ビジョンターゲットと「We」になる。

ここ大事です。ビジョンターゲットとは「一緒に未来を作っていく仲間」になってもらう必要があります。ビジョンターゲットとは「私は皆さんに●●を提供します」という関係性ではなく、「私とあなたは同じ夢を見ていて、その夢を実現するために、私は●●が提供できます」という関係性を作ることが大事です。つまり、ターゲットとの関係性は「I&You」ではなく「We」なのです。”同じ船に乗っている感”を出すことが大事です。ターゲットも含めた「私たちは・・・」という主語でストーリーが作って行けると非常に強いビジョンになります。


7.「主張」を「エビデンスで論理補強」し「個人的体験で感情補強」する
ターゲットとストーリーが見えてきたら、「主張−エビデンス−個人的体験」をつなげていきます。主張が「子育て世帯の不安を解決したい!」であれば、そこに「エビデンス」、つまり社会インフラの不足等の統計数字や、実際に世の中で起きているファクト、等を足して主張を強化します。これが論理面での強化です。次に、「私自身も幼いころこんな体験をしました・・・」という自分の原体験や、自分が触れた生々しいエピソードを補強します。これは感情面での強化です。この2つができてくるとグッと伝わりやすいビジョンができてきます。


8. ビジョンはパワポで作らない

ここまでおおよそ出来てきたらアウトプットしていきますが、ビジョンの作成はなるべくパワポでやらない方がいいです。第1条にあるように「感情」を呼び起こすツールが良いので、「手書き」(文字や絵)が良いと思います。または最近ワークショップメソッドとして流行っているLEGOやアートなどの触覚、視覚を使うツールもとても良いです。とにかく自分の五感が解放されるツールを使って、どんどんアウトプットしていきます。そうすると頭の中で考えていたものを超えるアウトプットが出てくるはずです。(もちろん、最後に文字化・資料化するのにはパワポを使いましょう。)


はい、ここまでが経営者が知っておくべき「ビジョンの作り方」、策定編です。いったんここまでとしまして、後日また気が向いたら、これを組織に伝える「共有編」を書いてみたいと思います。では。