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教育と学習の違い

「教育や研修によって人は育てる事ができるのか?」という問には色んな意見がある。

「人材は現場で育つのだから、教育よりも現場でどんどん苦労させるべきだ。」という考えも一理あるし、「現場だけの成長では限界がある。体系的な知識の獲得や、視野を広げる機会として教育は必要だ」というのも間違いない。また、このような意見の対立は、「研修の場で学んだことが現場に戻ると忘れ去られてしまう」という、人材育成における宿命的な壁が相変わらず存在するからでもある。

このような議論は、「教育」と「学習」の定義をきちんとすることで、かなり視界を揃えることができる。

『企業内人材育成入門』では、レイヴとウェンガーの『状況に埋め込まれた学習-正統的周辺参加』を引き合いに出しながら、両者の違いについてこのように述べられている。

状況論アプローチでは、人間は研修や学校といったフォーマルな教育プログラムの中だけでなく、現場で仕事に従事するなかでも、意識する・しないに関わらず”学んでいる”とされる。つまり、学習を「日常の中で複合的・継続的に進行する組織・個人の行動や考え方が変化していくプロセス」として理解するということだ。


(略)一方、教育とは、このような意味での、組織・個人による主体的な活動としての”学習”を、効果的・効率的に実現するための意図的な支援活動と見なすことができる。

(略)つまり、教育とはあくまでも「支援」であり、人材育成という活動における主体は学習者であるということだ。したがって、効果的な教育を実現するためには、学習という日常的・複合的・継続的な変化の方向と、そのプロセスがどのように進行していくのかを理解した上で、ど部分を、どのように支援するのかを明確化することが重要となる。


つまり、解釈しなおすと、
教育は、学習という「結果」を引き出すための「原因」である。
教育は、学習が「日常」であるのに対し「非日常」である。
教育は、学習が「線」形のつながりで行われるプロセスに存在する「点」である。

ということが出来る。この前提にたったときに、我々ラーニング・プロフェッショナルが心がけるべきことはなんだろうか。

1.「教育効果」について冷静な分析視点を持たなくてはならない。
教育がどのように学習効果に結びついたかは、学習に寄与する他の要因(上司や職場、外部環境等)や、時間軸(教育を含めた一定期間のストーリー)を考慮して判断されるべきである。少なくとも研修の満足度がどうか、という「点」の反応で評価されるべきではない。

2.「教育のプロ」は同時に「学習のプロ」でなくてはならない。
非日常のクラスルームで起こす刺激への深い知見に加えて、職場で起こされる日常の活動へのイメージも持っていなくてはいけない。

ということだろうか。

教育と学習は「行われる場所が違う」ため、なかなかこの「教育と学習の溝」は深いのが実情である。教育に携わる人がこの違いをしっかりと理解するとともに、乖離を埋めていく努力が必要だろう。

企業内人材育成入門

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