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【アジア式組織運営vol.2】アジアに共通する価値観って?

外部寄稿ブログ「アジア式組織運営を考える」第2回です。

前回のコラムでは「日本人とタイ人は似ている」という点に触れました。ものの考え方や価値観が似ているということは組織運営上有利に働くはずです。ではどのような点が似ていると言えるのかをもう少し考えてみます。

●Harmony~家族的な調和を重んじる風土

私がタイの企業で顧客企業にインタビューするときに、「あなたの会社の風土を一言で表すと?」という質問をすることがあります。その際にスタッフの方からよく出てくるキーワードは「Family」です。会社の仲間と実際の家族であるかのように付き合い、食事やイベントなどを一緒に過ごす。そうしたことは多くのタイ人にとって重要な価値観ではないかと思います。
この文化は、基本的には日本も同じです。日本の会社の経営理念によくあらわれる言葉に「和」があります。集団の一体感、調和を重んじる組織風土が日本企業においては良いとされてきました。社員同士が「家族」のように付き合う考え方も日本においては長らく普通のことでした。象徴的なのは「飲み会」です。会社の人と頻繁に飲みにいきとことん話し合うことでお互いの思いを通い合わせる。そうしたことが日本の強い組織を作り、高品質なモノづくりに繋がってきました。

日タイいずれにおいても、家族的な信頼をベースにした調和型(Harmony)の組織が好まれてきたという意味での共通点はあるでしょう。

●「Share」という概念

少しその背景を考えてみます。「アジア」というもののルーツの一つには、農村の共同体の作り方があるといわれています。アジア的な農村においては、基本的には土地を「共同で」所有するのが普通でした。土地を共同で所有していますから、収穫も皆で分け合います。また、収穫するための労働も皆で分け合うというのがアジア的な農村の在り方の特徴です。対してヨーロッパでは、徐々に私有地をベースにした共同体に移行していきました。文化を大きな括りで比較してしまえば、欧米は個人主義、アジアは集団主義、という傾向がみられるのはこうした背景があるようです。

こうした「分け合う(share)」という概念はアジアの組織における仕事の仕方の一つのキーワードです。例えば「労働のシェア」。タイ人も日本人も、人を「助け合う」という価値観を好むという意味ではとても共通していると思います。例えばタイの研修でディスカッションをしていると「目標は個々人に割り振るよりもチームの目標として設定し、達成したらみんなでお祝いするほうが良い」という考え方を話してくれるタイ人マネージャーさんに出会います。このような考え方は、日タイ双方のメンタリティに合致するという意味で、日本人とタイ人が一緒に働くうえで非常に参考になります。

●文化よりも気になる「時代の価値観」

もう一つ別な視点を提示しておきます。先日、アジア各国の人々が「職場に求めるもの」を調査したアンケート結果が話題になりました。中国や韓国など東アジアの人々や、タイをはじめとする東南アジアの人々が選んだのは一様に「高い賃金」だったのに対して、日本だけが「人間関係」と「仕事内容」を選んでいた、という結果でした。こうしてみると「日本人は仕事が好き」「それ以外のアジアはお金が好き」というようにも思えます。果たしてそうなのでしょうか。(参考:http://www.mag2.com/p/news/193042

実は日本人も「お金が大好き」だった時代がありました。いわゆるバブル経済という時代です。当時の日本は好景気に沸き、「財テク」という言葉が流行り、皆が投資や不動産に興味を持ち、どうやってお金を増やすかを考えていました。実は、人の価値観というのはこうした時代の空気の影響を大きく受けます。特に10代の時にどんな世の中だったが価値観への影響度は大きいと言われます。タイもこの10数年目覚ましい経済発展をしてきたわけですが、比較的おカネを使うことが好きと言われる「Y世代」(=主に今の20代を中心とした世代)はそうした時代の影響を受けている部分があるかもしれません。でもそれは別にタイに限った話ではなく、経済が発展するとどこでも人々はそういう価値観を持つようになるのです。
こうした価値観のギャップは自国民同士でも日々感じているはずです。日本では昨今の若者世代を「ゆとり世代」と呼ぶことがありますが、価値観の異なる若者世代とどう一緒に仕事をしていくかは一つの大きな組織運営上のテーマとなっています。タイでも「Y世代」をどうマネジメントするかについての研修やセミナーを日常的によく見かけるにつけ、似た風景だと感じることがあります。

つまり何が言いたいかというと、どこでも似たことが起きているわけです。たまたま経済発展が違ったタイミングで訪れただけで、人間の価値観の形成のされ方は根本的には似ています。確かに外国人と仕事をしていると我々は日々価値観の違いに直面をします。それを「○○人だから」という風に短絡化してしまわずに、少し別な背景も想像して考えることができると、相手と自分の「違い」に振り回されずに、「同じ」という考え方で接することが出来るのではないでしょうか。

さて、このコラムはアジアの組織で働く読者に向けて書いていますが、その中には、人を率いるポジションについている方も沢山いるでしょう。次回からは、「リーダーの役割」について話を進めていきます。