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「シンガポールで幼児教育」は正しいのか

シンガポールで幼児教育」の風潮が高まりつつあるこの頃。確かに世界有数の教育環境だとは思いますが、あくまでそれは多様な選択肢の一つだと思うので、今日は個人的な考えを書いておきます。

ちなみに私はシンガポールで子育てをし現地の幼稚園に通わせていましたが、自分のキャリアチェンジとともにバンコクに引っ越しました。今後はしばらくバンコクにいるつもりですが、こちらも子育て環境としては十分な魅力があると今のところ感じています。

よく言われる子育て場所としてのシンガポールの特徴は「英語環境」「教育先進国」「多様性」ではないかと思います。それぞれ思うことを書いてみます。

まず英語環境についてですが、英語で学べる環境はほかのアジアのメジャーな都市であれば手に入ります。バンコクでもインター校は山ほどありますし、また習い事だって英語で受けられます。シンガポールが優れているとすれば、中国語も学べるという事です。投資家のジム・ロジャースのようにネイティブクラスの中国語が絶対に大切と信じるのであれば、シンガポールか香港を選ぶのは良いと思います。

教育先進国という点ですが、大学のレベルは確かに違うと思いますが、初等教育であれば一流のインター校に入れておけば大差はないのではないかと思います。どの主要都市にも米国系、英国系のインター校はありますから、基本的には本国のカリキュラムに則って行われます。アジアの主要都市であればそれなりの数のExpatがいますから、クラスメートも多国籍でレベルの高い生徒だと思います。シンガポールだけが決してそうとは思いません。逆にシンガポールのインター校は信じられないくらい高額ですから、コストパフォーマンスで言えばどちらが高いわかりません。

最後に多様性ですが、シンガポールは本当に多様性の国なのかどうか?については私はやや疑問です。確かに移民国家でですので、いろいろなオリジンの人と触れ合えるという意味ではそうですが、上述のインター校に行けばどの都市でも、白人アジア人、様々な国籍の友達と机を並べて学ぶ経験は手に入ります。むしろ私がシンガポールで感じたのは、単一的なカルチャーです。シンガポール人は「シンガポーリアン」というアイデンティティを教育段階で与えられ、能力至上主義の中で効率性を重視して教育されるため、考え方がとても似通っています。また国土も狭く娯楽や文化活動も少ないため人々の嗜好の幅も狭くなりがちです。例えばショッピングモールはどこに行っても同じような店が並んでいますが、提供者も顧客もその状況に違和感を覚えません。果たしてこの環境で、新しく価値を作り出せる人が生まれてくるのだろうか?というのが日本人の私が持った率直な印象です。

教育とは、どれだけ多様な、また質の高い刺激を受けるのかで決まります。そしてそれはまた、必ずしも学校からだけ与えられるものではありません。むしろその国が背負う文化や歴史からにじみ出る、土地のDNAのようなものが最も強い教育刺激だと思います。街にアートがあふれるパリに育てば自然と感受性は育ちますし、歴史的に歌や踊りが得意なタイに育ったタイ人はエンターテイメントのDNAが備わっています。シンガポールは、日本で例えればお台場や豊洲のような、だれも住んでいないところに後から作った都市国家ですから、その土地に宿ったDNAというものがありません。これは教育を行う場所としてのシンガポールの弱みなのではないかと思うのです。

繰り返しますが、シンガポールが世界有数の教育を受けられる場所であることは間違いありません。クラスメートも比較的優秀でしょう。ただお金もかかりますし、シンガポール「だけ」がその環境を提供できるわけではないと思います。また日本人にとっては、日本で、日本の豊かな文化を吸収しながら子供を育てるという選択肢を捨てることになります。確かにシンガポールに育った結果として国際感覚のある人にはなると思いますが、国際人になることは目的ではなくて、おそらく手段です。その先にある、どういう人間性を持った人物に自分の子供になってもらいたいのか、という事を考えながら、教育する場所を選択する必要があると思います。