Learning Web

起業、人事、アジア、などなど

グローバルとローカルのシンプルな整理

「グローバル」という言葉を聞かない日は無いわけですが、海外で活躍する人を「グローバル人材ですね!」と呼ぶことも、事業を海外展開することを「グローバル展開だ!」と呼ぶことも正しくない、と思っています。

今日はちょっと私の考えを以下に整理してみます。


■海外は「ローカルの集積」

海外で仕事をする人は、基本的には「ローカル市場」に向き合っています。例えば私はタイで仕事をしていますが、非常にローカルです。イメージとしてはグローバルというよりも、九州支店とか東北支店とか、そのさらに先にある地方市場、という感じすらします。

これをサッカーで例えるなら地方リーグです。地方リーグには地方リーグの独特の環境があります。芝の質が違うとか、審判の判定がちょっと違うとか。タイのリーグであればタイ語も覚えないといけません。そういった「ローカルルール」をよく理解して戦うことが、ローカルで勝つために必要です。

ビジネスでいえば、タイの市場を理解し、タイ人の気質を理解し、タイのコミュニティをよく理解しないと仕事ができません。ここで求められるのはグローバルというよりは、「ローカルに徹底的に向き合う姿勢」です。多くの日本人はこれまで海外に工場を立て、モノを作り、販路を開拓し、売ってきました。ここで発揮されてきたのはこの「ローカルに向き合う姿勢」に他なりません。

これは一言でいうと「現地に飛び込んでなんとかやれる力」です。特にこれまではローカルと言うとだいたい日本より後進国でしたから、そんな環境でも何でも食べられるかとか、病気にならないかとか、そういった「タフネス」が重要な要素として含まれてきました。今でも、インドネシアやインド、またミャンマーバングラデシュ、そしてその先に広がるアラブやアフリカなどで戦っていくには、こういった身体的タフネスも含めたローカル耐性が非常に大切です。

■「グローバル」な場所も存在する

一方で、世界中の人たちがしのぎを削る「グローバル」な場所も存在します。アジアでいえばシンガポールや香港などがそうです。これらのエリアは資金調達がしやすい、税金が安い、地理的利便性から周辺国を統括しやすい、等のメリットがあり、世界中の企業や人材が集まってきています。

いわば世界中のサッカープレイヤーが集まっていて、アジアカップやワールドカップを戦っていると言ってもいいかもしれません。ブラジル人やイタリア人と一緒にチームを組んで、試合を戦うような感じです。そうなるとまず、誰とでも「コミュニケーション」ができないといけません。その為には共通言語である英語は必須ですし、どんな人とも意志疎通が図れ、良好な関係を作り、目的を達成できるためには言語能力を超えた部分のコミュニケーション能力が求められます。

加えて大切なのは、「自分のプレースタイルの確立」です。ブラジル人が個人技なら、日本人の強みはパスだ!といった感じで、世界に通用する自分だけの武器を持っていないと、世界で戦えないわけです。ビジネスでいえば、仕事の品質の高さ、計画性、思いやりの心、強いコミットメント、チームワーク、などが日本人の強さとして挙げられますが、そういった強みを自己認識し、さらに現地に合わせて磨き、かつ強みとしてアピールしていくことが有効な戦略となります。

■ローカルとグローバルはミックスしている

さて、あえてローカルとグローバルを分けて書きましたが、この2つは実際には混じり合っています。シンガポールにもシンガポール社会というローカルコミュニティが存在しますし、タイで働いていてアメリカ人と仕事をすることもあります。これら二つは混じり合いながら存在している、ということを知っておく必要があります。ゆえに、「ローカルに向き合うこと」「コミュニケーション」「自分のプレースタイルの確立」の3つは海外のどこで働くうえでも必要な要素だと私は思います。

ただ場所によって度合いに差がありますので、企業の人事や、海外キャリアを目指す人は、どの場所でどういう事業や仕事をしたいのか、に応じてスキル要件を考えていく必要があるでしょう。「インドネシアに工場を作る」→「TOEIC高得点者募集!」ではなく、インドネシアという国に溶け込む気概があるか、渋滞や食文化を受け入れられるか、等の方を重視して人選すべきです。言語もインドネシア語を先に磨いていく必要があるでしょう。

「グローバル人材育成」というと「いつか、世界のどこでも仕事ができる人を、できるだけ増やしておく」といった発想で、目的があいまいになってしまいがちです。サムソンは特定の地域に人を送り込んでその国スペシャリストを育てるような育成をすることで有名ですが、まだその方が事業合理性にかなっている気がします。グローバルで戦うための最低限の能力を磨くことを重視しながらも、どういう地域でビジネスを伸ばしたいかに応じた、ローカル目線で考えた人材育成と配置が大事だと思っています。