Learning Web

起業、人材、アジア、などなど

「想い」というふわふわしたものに対する想い

ビジネスパーソンのワザとココロ」を仕事のドメインとしているつもりですが、最近は「ココロ」系のテーマに出会う事がますます増えています。

「ワザ」とはビジネスに必要な、知識やスキル。「ココロ」とは仕事への想いや志、それを基にした根源的なモチベーションなど。もともと後者のココロ系の仕事をしていたのですが、ワザっぽい今の会社に移ってからも後者の仕事は少なくなく、むしろ増加傾向にあります。

企業の育成ニーズは多種多様なわけですが、リーダー教育になればなるほど「ビジネススキルは訓練で身につけることができるけど、リーダーとしてのハートを鍛えるのが一番難しい」というアンメットニーズが最終的に残る。そんなトレンドがあるとは感じますが、一方でこの「想い」というのはどうもフワフワしている。いったい何を指すのか、どうやったら高められるのか、非常に捉えにくいものでもあります。

「あなたの根っこにある想いは何ですか?」とか「あなたが心底ワクワクする瞬間は?」とかそういう問いに「ピン」と来てビビッドに反応できる人は良いのですが、「うーん」となってしまう人も沢山います。先日は「ワクワクの定義って何ですか?」なんて質問も出たりして、(ワクワクしてる人は定義とか考えないよなぁ)とも感じつつも、そう聞きたくなる気持ちもよくわかるわけです。

想ってるだけを良しとしても意味ないし、想うよりも実現する方が難易度は高いとも思うし。こんなフワフワしたものを「経営者に必須の要素です」とか言っちゃっていいんだろうか、とかそんなことを考えると何か非常に無責任なことをしている気がして、また夜も眠れないわけです(笑)。

そんな感じで眠れないままに先日、一橋大学院の一條教授の講演を聞く機会があったのですが、彼のテーマが「思いのマネジメント」でした。彼は2010年に「思いのマネジメント」MBB:「思い」のマネジメント ―知識創造経営の実践フレームワーク | 一條 和生, 徳岡 晃一郎, 野中 郁次郎 | 本 | Amazon.co.jp野中郁次郎氏・徳岡晃一郎氏との共著で出版しており、「MBB(Management by Belief)」というテーマは最近広く知られつつあります。

「おお!IMDでも教鞭をとられている一條教授も”思い系”か!!」とちょっとびっくりもしたのですが、彼は「想いと言うとナイーブなものに映るかもしれないが、すぐれたMBBとMBO(Management by Objective)というのは両立している。強い想いを持つからこそ、目標にコミットするのだ」と聴き手の懸念にうまく配慮した話し方をしていました。また、「イノベーションは管理からは生まれるのではなく、個々人の想いから生まれる」。そんなことも仰っていました。

あの一條教授が言うのだからやっぱり想いは大事なんだ!と一瞬安心しつつも、「ふわふわ問題」の問いは残ったままで、まだまだ眠れない日々は続きました(笑)

眠れないままに今度はHarvard Business Reviewをブラウジングしていると、Don't confuse Passion with Competence という記事が気になりました。「情熱と能力を混同するなよコラァ!」というわけです。

なるほど、Passion≒想いと捉えるとすればHBRも似たようなことを気にかけているようです。さすがハーバード。おお、と思って読み進めているとこんな感じです。(抄訳にて失礼)

And without passion it's hard to do something that's meaningfully different from what has been done before. It's next to impossible to prove that a new idea will work. Passion and intuition are necessary ingredients for disruptive success./But leaders overseeing innovation efforts inside their companies need to be careful of mistaking passion for competence.
情熱なくしてはこれまでと異なる、意味あることを成すのは難しい。新しいアイデアが成功することを予測するのは不可能に近い。情熱や直感は破壊的な成功には欠かせないものだ。(略)しかし、リーダーがイノベーションを導こうとした場合、情熱を能力と勘違いしてはいけない。

Passion only matters if it leads to an innovation that delivers impact, whether that impact is measured in revenues, profits, improved process performance, or something entirely differently. This is one reason why good venture capital investors dole out capital in stages. They are waiting to see if the vision that looks so great on paper bears any resemblance to reality.
情熱は世の中にインパクトを生んで初めて意味があり、そのインパクトは収益や利益、プロセス改善やまた何か別なもので測ることができないといけない。それゆえVCは資本を段階的に投下する。彼らは紙の上で魅力的に映るビジョンに現実味があるかどうかをじっくり見ているのだ。

When I'm evaluating entrepreneurs and their ideas, I look for "innovation bipolarity,"... "the ability to hold two opposed ideas in the mind at the same time and still retain the ability to function." Entrepreneurs should be able to argue passionately that their idea will change the world, and then, without skipping a beat, honestly assess the risks standing in the way of its success and describe what they are doing to mitigate them.
アントレプレナーを評価する際に、私は「二極性」を見る。異なる真逆の考えを同時に持ち、かつ発揮する。アントレプレナーとは、自分の考えが世界を変えると熱っぽく語れなくてはいけないと同時に、胸の高鳴りを押さえて冷静にリスクを評価し、低減させる方策を描けないといけない。

ということで、passionも結局成果につながらないとだめで、またそのためには「二極性」と呼べるような情熱と冷静の双方の要素が必要、と述べられています。こう聞くと徐々に解像度が上がってくるような気がします。

少し整理っぽいことをしてみると、

・「想い」は大事で、想い無くしては事は成し遂げられない。
・同時にそれによるアウトプットがどういったインパクトがあるのかを定量化、具体化できていないといけない。
・そのためには、自分の想いをいわば冷静に客観視し、リスクや実現可能性を判断できないといけない。

ということです。

情熱と冷静のバランスですよ、というと何か面白くも何ともない結論のようにも見えますが、どうやら言えそうだな、と思うのが、「本当に強い想いを持っているのならば、それがもたらす変化のイメージや実現のための具体的方策にもおのずと考えが巡らせているはず。さらに言えば行動しているはず」ということです。

別の言い方をすると、「実現したらいいな〜えへへ〜」では「想い」と呼ぶには覚悟が足りないとも言えます。

そう考えると、「あなたの心の底にある想いは何ですか?」と無責任に問うよりも、「あなたが世の中にもたらしたい具体的な変化、そしてその実現のためにこれまでにあれこれ考えを巡らせたり、実際に行動してみたりしたことは何ですか?」と問うた方が、自分との対話を有意義にするためには良いのではないか、とそんなことを思ったりしました。

どこまでもふわふわしている概念ではありますが、よく語られるにもかかわらず解釈の異なる言葉だからこそ、ソフトイシューとして簡単に片づけてしまわず多面的な理解にチャレンジしていきたいと思います。

まだまだ眠れない日々は続きます。。。

(ご意見などはFacebookページに是非お願いします)

MBB:「思い」のマネジメント ―知識創造経営の実践フレームワーク

MBB:「思い」のマネジメント ―知識創造経営の実践フレームワーク