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「アタマで理解」と「ココロが動く」は会議と映画くらい違う

研修やワークショップなどの「場」を設計していて、日々思うことを今日は書きます。


研修などの「場」は大きく「アタマで理解してもらう」ことが目的の場と、「ココロを動かす」ことが目的の場の2つにわかれます。


前者は、例えば「経営を体系的に学ばせたい」とか「自身や組織の課題をあぶりだして課題解決のステップでソリューションを導きたい」といったことがゴールの場。後者は「個人の気持ちや志に火をつけたい」とか「みんなの気持ちを一つにして一体感を高めたい」とかそんなのがよくあるゴール。もちろんこの2つが混ざった目的の場もあります。コンサルタントとしての私の仕事は目的に応じてこれらの場をデザインすることですが、最終的な仕上がりを創るために、この2つで留意すべきことは異なります。


「アタマ系」の場で大切なのは、最初に頭の中に「引き出し」を創ってあげること。いわゆる「先行オーガナイザー」(Advanced Organizer)というやつです。先行オーガナイザーとは、学ばせたい知識に先立ってあらかじめ枠組みを提示してあげることで学習が促進されるというものです。セミナーなんかでも「本日の内容」とか最初に示しますよね。あれがあるのと無いのでは、そのあと伝えられる内容に対する受け手の理解度は変わってきます。会議のアジェンダや、資料の目次など、日常的に私たちが使っている方法です。


一方、「ココロ系」の場ではこの先行オーガナイザーは不要です。たとえ心を揺さぶる研修であっても、冒頭で「今日は最初に危機感を感じてもらいます、そのあとはちょっとしんみりしてもらって、最後は感動してもいます」とは普通言いません。頭で考えることは心で感じることを邪魔してしまうので、余計なアタマは使わせずに、自然に題材に引きこんだり、インタラクションの中で心が動いてくれればそれでよいわけです。これは映画や小説のアプローチに近いです。小説の目次に「第1章出会い、第2章別れ、第3章突然の再会」とか書いてあったらあまり感動できません。ココロが動くためには良い意味での驚きや裏切り、といった「筋書きが見えないこと」が大事なわけです。研修といっても、いかにドラマチックな場づくりができるか大事ということです。


この理解に基づくと、我々場づくりをする人々にとっては場の目的に応じて「どれくらい筋書きを見せるか」のデザインが大切だということが分かります。筋書きの見せ方は「研修やワークショップのタイトル(題名)」「事前に見せるスケジュールの開示度合い」「冒頭でどんな場だと伝えるか」といたことに関連してきます。アタマ系の場の場合は枠組みは見せるに越したことは無いのでそこは難しくありませんが、その代わり枠組みそのものののわかりやすさが問われます。MECEでありスッと入ってくる枠組みか、ちゃんとそのあとのものが入れられる引き出しになっているか、等です。


一方、ココロ系の場の場合はやや難しくて、大げさにいえばドラマチックに場を創るための演出のセンスが求められます。映画や小説と違って、「場」の場合には相手が「ココロを動かされたい」と思っていないので、よりこのセンスが必要になります。


例えば、「リーダーとしての夢を描く」といったことがゴールだとして、「今日は最後にみなさんお一人お一人の夢を描いて発表してもらいます」というべきかというと、基本的には言うべきでない。そう聞いた時点で「いやだなぁ」といったマイナス感情も湧きますし、そのあと投げられる題材も「これと夢がつながってくるのか?」とか頭で処理するようになってしまいます。たまに冒頭で「この研修は、みなさん最後には熱い気持ちになって帰ってもらっています」とか言うファシリテーターを見ると、あまりセンスを感じません。「全米が泣いた!」みたいな、特にいらないフレーズです。それはその人のココロを動かすことの邪魔になります。


心を動かす演出力を発揮するには、つまるところ「ギフト」の精神が大事でしょう。結婚式の2次会で、新郎新婦に完全に内緒にして実家にインタビューに行ってくる、とかそういうサプライズを仕掛ける人がいますが、ああいうセンスです。


リーダー教育では、ますます「ココロ」の重要度が高まっています。いくらスキルを高めてもそれを何に使うのかの目的の方が大事で、目的を見つけるには自分のココロがどちらに向いているのか、を感じ取れなくてはいけません。そしてこれが中間管理職と経営者を分けるものでもあります。人を育てる仕事において、ココロを動かす場づくり力の重要度は今後も大切なものだと思います。