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職場が生きる・人が育つ「経験学習」入門

職場が生きる・人が育つ「経験学習」入門 を読みました。

「経験学習」入門

「経験学習」入門

本書でも出てきますが、人材育成における「70:20:10の法則」という有名な法則があります。人材の成長は70%は自分の仕事経験から、20%は他者の観察やアドバイスから、10%は本を読んだり研修を受けたりすることから得られる、というものです。人材育成に携わる立場からすると、研修が1割というのはショッキングな法則ですが、一方で経験的は納得感の高い割合ではないでしょうか。本書は、この「70%」の直接的な「仕事の経験」から人はどのように学ぶのか、ということに光を当てています。

経験学習研究について書かれた本はあまり多くありませんが、この領域の第一人者である松尾教授は2006年にも「経験からの学習」という書籍で本書のベースとなる理論を書き著しています。本書は、「入門」とある通りより広く経験学習についての考え方を知っていただくために平易に書かれた書籍となっています。実験データや分析プロセスについての記述は多くありませんが、その分シンプルなコンセプトやフレークワークなどを多用し、わかりやすく誰でも読める一冊となっています。

経験から学ぶには本書によれば「ストレッチ」「リフレクション」「エンジョイメント」が必要となります。ストレッチとは、「問題意識を持って挑戦的で新規性のある課題に取り組む姿勢」のこと。リフレクションは「内省(振り返り、知識・スキルを身につけ修正すること)」ですが、行為の後の内省だけでなく行為をしている最中の内省が大事、と述べられています。最後にエンジョイメントは、「自分の取り組む仕事にやりがいや意義を見つける姿勢」を指しています。

経験学習はこの3つがサイクルとなって回ることで起こりますが、わかっていてもこれがなかなか難しい。そこで三要素を持続させていくための「原動力」として「思い」(=仕事の信念)「つながり」(=他者との関係性)の必要性が述べられています。思いは、行動や態度を方向付け、自分の経験を意味づける働きをする。つながりは、メンター、ライバル、ロールモデルなどから教えられ、刺激を受け、支援される効果を指します。「つながり」については、「発達的ネットワーク」という考えが紹介されていますが、ネットワークの「強さ」と「多様さ」が個人の成長への影響度合いを決めるとされています。

本書ではこのような整理をしたうえで、「育て上手なOJT指導者調査」の結果を通じて、実際に現場で経験学習がどのように起きているかを明らかにしています。結果として、育て上手の指導者は「目標のストレッチ」「進捗確認と相談」「内省の促進」「ポジティブ・フィードバック」をうまく行っている、ということが整理されています。このOJTサイクルが、個人の経験学習サイクルと同期しており興味深いとともに、いち指導者として非常に参考になるコメントが並んでいます。

一部を抜粋すると、

「自分の力量×1.5倍の仕事をさせることで若手は伸びます。ただし2倍になるとつぶれる人がでてくるので注意しなければなりません。ほったらかしは禁物です。」
「『わかりました』を簡単に連発している場合は、イメージできていないことが多いので注意が必要です。」
「(部下の話を)しっかり聞いて、『聞き切った』と思えた後にちょっとアドバイスをします。しっかり聞いた後にアドバイスするとその内容がスーッと相手の心に入りますが、聞き切らないうちにアドバイスすると心に入りません。」
「成績が悪かったり、ミスしたときには、『どうしてダメだったのか?』誰でもがそう考えるはずだ。もちろん、。そうした反省も必要であることは確かだ。だが、もっと大切なのは、調子が良くて記録も上がった時に、『どうして良かったのか?』を考えることである。」(水泳の平井伯昌コーチ)
「どんなに文句を言いたいときでも、まずは『お疲れさん』の一言から入ります。相手も『怒られるんじゃないか』と思ってビクビクしていますから(略)」


など、です。一つ一つは当たり前のコメントかもしれませんが、本書でここまで述べられているフレームに沿って紹介されていますので納得感の高いものになっています。

以上、おおまかに紹介をしましたが、教育学の研究者に閉じられがちだった「経験学習」の概念を、広くビジネスパーソン全般・人事担当者はじめ教育に携わる方全般に紹介してくれる良書だと思います。